大阪地方裁判所 昭和58年(ワ)3321号 判決
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【判旨】
一 <証拠>によれば、被告今田博は、被告石川義則とは友人で親交があり、本件事故発生の日である昭和五二年一一月二三日午前一一時頃、被告石川義則に対し、試乗のために加害車を貸与したこと、被告石川義則は、加害車を試乗のために借り受けてこれを運転し、同日午後二時頃、被告今田博に加害車を返しに行く途中に本件事故を発生させたことが認められる。
<証拠>には、本件事故当日の昼頃、被告石川義則に対して、一万五〇〇〇円で加害車を売り渡したが、昭和五二年一二月初旬頃、被告石川義則とその母親から金銭面のことは被告石川が負担するから加害車を貸したことにしてくれと依頼されたために自動車保険料率算定会西日本調査事務所からの照会に対する回答書(甲第一二号証)には「試乗のため貸した」と記載した旨の前記認定に反する供述部分が存するけれども、仮に被告今田博が被告石川義則に対し、本件加害車を売り渡しているのであれば、その代金は受領しているはずであるが、被告今田博の供述によれば、その代金は受領していないし、その請求もしていないというのであるから、売り渡した旨の前記供述は極めて不自然であること、被告石川義則とその母親から被告今田博に対し、加害車を貸したことにしてくれと依頼された時期(昭和五二年一二月初旬頃)と右回答書の作成時期(甲第一二号証の受付印は昭和五四年六月一日となつている)との間に約一年五か月の期間があり、真実、加害車を売り渡しているのであれば、これに反して加害車を「試乗のために貸した」と虚偽の記載をしなければならなかつた等の特段の事情が認められない限り、右回答書にも売り渡した旨の記載をするものと考えられるところ、右回答書作成時期において、右特段の事情も認められないこと、被告石川義則は現在所在不明であること等の諸事情を併せ考えると、被告石川義則に対し、加害車を売り渡した旨の被告今田博の供述部分は、にはかに措信し難く、他に前記認定をくつがえすに足りる証拠はない。
右の事実によれば、被告今田博は、昭和五二年一〇月頃、友人の東から加害車を買い受けて、これを所有していたところ、親交の関係にあつた被告石川義則に対し、試乗のために加害車を貸与し、同被告が試乗後、加害車を運転して返す途中に本件事故を発生させたものであるから、被告今田博は、被告石川義則に対し、加害車を貨与していても、なお、その運行に対する支配を失わず、かつ、その運行による利益を享受していたものというべきであり、また、借受人である被告石川義則は、加害車を自己の用に供し、自己の利益のために運行していたことも明らかである。
したがつて、被告らは、いずれも自賠法三条により、本件事故によつて被害者に生じた後記損害を賠償する責任がある。
二 <証拠>によれば、原告は、自賠法七六条一項の規定に基づいて代位取得した本件の損害賠償債権金五〇四万二八四一円について、被告今田博に対し、履行期限を昭和五五年五月一九日と定めて、右金額の納入告知の手続をとつたが、同被告からの納入はなされなかつたこと、原告の保障業務の担当機関である大阪陸運局自動車部旅客第一課(以下、「陸運局」という。)の自賠債権担当官代理松川隆男は、昭和五八年一月一六日、右金額を納入するよう督促するため被告今田博宅に赴いたが、同被告は不存であつたため、右松川は、被告今田博が、右債務を承認し、分納を希望する場合は、同封の履行延期申請書に記載例を参考にして記入のうえ至急陸運局に返送すること、異議又は質問があれば、陸運局保障係まで連絡すること、返事がない場合は、支払意思がないものとして、国は管轄裁判所に訴の提起をする旨の記載をした書面を同被告宅に投函したこと、被告今田博は、父親から陸運局に行くようにと言われ、また、兄からは、本件債務額のうち、その半額は負担しなければならない、と言われて昭和五八年四月一日、陸運局を訪れ、右松川に対し、一回に支払いをすることはできないので、分割払いにしたいから履行延期申請書の記載方法を教えてくれと言つたところ、右松川は、右申請書の記載方法を教え、被告今田博に対し、全額支払うように言つたこと、これに対し、被告今田博は何ら異議を述べなかつたこと、被告今田博は、前同日、印鑑を持参していなかつたため右申請書の作成はできなかつたこと、そのため、右松川は、被告今田博に対し、履行延期申請書の用紙を交付し、記載例のとおり記載したうえ、これを陸運局に返送するよう申し向けたところ被告今田博はこれを承諾して帰宅したが、その後、同被告から陸運局に対し、履行延期申請書は提出されなかつたこと、以上の各事実が認められる。
以上の事実によると、被告今田博は、消滅時効完成後である昭和五八年四月一日、原告の保障業務の担当機関である大阪陸運局を訪れ、担当官松川隆男に対し、本件事故に基づく損害賠償債務の存在を前提として、本件の金五〇四万二八四一円について、その分割支払の申込みをしたものと認められるから、同被告は、前同日原告に対し、右債務の承認をしたものというべきである。
そうすると、被告今田博が、前記の消滅時効を援用することは信義則上許されないと解すべきである。したがつて、原告の債務承認の主張は理由があるから、被告今田博の消滅時効の主張は採用しない。 (喜如嘉貢)